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みんなの広場

2017-12-28

2017年の美術館・博物館・遺跡巡りの回想 (My美術談義1)

山本 雅晴

1.はじめに

  私が美術に興味を持ち美術館・博物館などに通うようになってから30年余りになります。特にジャンルを限定せず面白そうな展覧会は何でも見るということです。従って、広く・浅くで深みはありません。また、例えば、西洋美術なら、キリスト教やギリシャ神話などの知識がなければ立入った説明や解説はできません。日本美術なら仏教や古典文学の素養がなければ深い理解は得られません。私はいずれの知識や素養を持ち合わせていない状態で数多の展覧会を見、美術関連のテレビ番組を見てきました。この様な前提で小生流の美術談議を勝手気ままにさせていただきます。

 私のベースとする情報源は:@訪問記録の年度別集計(30年・4050件・EXCEL一覧表)、A訪問場所別まとめ、BTVなどからの映像記録(BDで約1200時間/8年分)、C美術カタログ・本など約500冊、D主要画家別鑑賞リスト(15人・未完成/EXCEL)、などです。いろいろ情報源はありますが、頭の中は整理されていません。

最近の人気の美術展覧会はよく混んでおり静かにゆっくりと鑑賞するにはほど遠い状況です。私はできるだけ混雑の少なそうな日時を設定して出かけるようにしていますが、これもままならない時がある。やむおえずめぼしい作品だけをざっと鑑賞した後、TV番組の映像記録で詳細を見ることにしている。


2.平成29年の美術館・博物館巡りの回想資料12017年鑑賞の一覧表、資料2に今年のベストテン)

(1)日本・東洋絵画:今年はあたり年でいくつかの注目すべき企画展示があった。

 @ 1月初めに東博の国宝展示室で静かな雰囲気でゆっくりと長谷川等伯の国宝「松林図屏風」を見た。(写真撮影も可)。やはりこの絵は静かな雰囲気で見たい!4月に智積院(京都)で等伯・久蔵の国宝「松に秋草図屏風」・「楓図壁貼付」・「桜図壁貼付」を、10月に京博の「国宝展」でも同じ展示を見たが混んでいた。
 なお、長谷川等伯については2年ほど前に文春文庫から出版された安部龍太郎の「等伯」という小説を読んだ。小説家によるフィクションが混在するが、等伯・家族・当時の社会情勢を鋭くえぐりだしており、美術評論ではない等伯作品の誕生の過程を感動を持って体感できた。この小説の内容に等伯は生地の七尾からの上京の途中で敦賀での滞在を余儀なくされ、妻・息子の久蔵が一年くらい日蓮宗の寺(妙顕寺)に寄宿していた。事実かフィクションかは不明だが、著者が敦賀の当時の史実を調べ詳細に敦賀について記述してある。私が小説で敦賀についてこれほど詳しく記述した小説を読んだのは初めてでした。敦賀の人は既にご存知かも知れませんが、まだこの小説をお読みでなかったら是非読んで下さい!当時の敦賀周辺の古地図や等伯の作品カタログを手元に置いて参考にすると理解の助けとなります。

 A 狩野永徳・松栄:大徳寺・聚楽院(1)で国宝「花鳥図襖絵」「琴棋書画襖絵」「蓮池藻魚図」など薄暗い部屋に本来あるべき状態で説明を聞きながら鑑賞した。(通常は複製品で本物は京博の貯蔵庫に保管) 今までにも一部は展示会で2〜3度見た記憶はあるが寺でまとめてみるのは初めてでした。インターネットで日時指定の申し込みをして見に行ったが、廊下から短時間の鑑賞では甚だ不満足でした。別部屋の千住博の「滝図」の方が明るい青と白で見映えがした。
 「天下を治めた絵師 狩野元信展」サントリー美術館・9月、元信を中心に関係あるその時代の絵の展示会は初めてとのことです。狩野派の礎を築いた元信の作品の経緯が理解できた。

 B 京博の「海北友松展」(4〜5月):単独での展示会は初めてらしい。長谷川等伯とほぼ同じ年代に活躍した、よく似た武家出身の境遇の画家で、今までにも何点か見た記憶があった。花鳥図、龍図、水墨画など大作もあり、見ごたえがあった。特に最晩年の作品で米国のネルソン・アトキンズ美術館からの国宝級の「月下渓流図屏風」は「静かで控えめながら細部には力強さが宿っている」との注釈はまさに的を射ている。なお、この展覧会を企画した京博の山本英男学芸部長には国華から今年の「国華展覧会図録賞」が授与された。

 C 喜多川歌麿の三大肉筆浮世絵「雪・月・花」展(3点揃うのは1879年に日本で展示されて以来138年ぶり)がワシントンのフリーア美術館で44日〜79日に開催され、その類似展示会「月のみは:高精細複製画」が岡田美術館(箱根小涌園)・9月鑑賞、「月」はフリーア美術館の所蔵品でコレクターの遺言で門外不出のため貸出できない。「花」はワーズワス・アセーニウム美術館の所有で1995年千葉市美術館「歌麿展」に出展された。「月」は複製画とはいえ、最近の高精度デジタル複製技術は素人では本物と見分けがつかない。

  D 陳溶(南宋時代:1213世紀):「九龍図巻」ボストン美術館の至宝展(東京都美術館・8)1996-10、横浜そごう美術館でも見ていた。中国・日本で昔から幾多の画家が題材としているが、陳溶の龍図は有名とのこと! 大阪の「藤田美術館」が所有していた陳溶の「六龍図巻」(藤田美術館には5回くらい行っているが見たことがない)は、今年の3月にニューヨークのクリスティーズの競売で約56億円で落札とのこと。また、東博の所有する「五龍図巻」は東洋館の中国書画展示室で1012月に展示されていて初めて見ることができた。特に、他の画家の龍図に比べて感動したわけではないが、非常に高価なものらしい?

 E 藤田美術館:4月の13日〜15日に大阪・奈良・京都に行った時、良い天気だったので昨年12月に開館した「絹谷幸二天空美術館」を見た後、浅妻庄次郎さんから勧められていた「造幣局の通り抜けの桜」を初めて見た。両岸の桜を見ながら橋を渡って対岸に歩いて行ったら昔の藤田伝次郎の屋敷跡で現在は大阪市の公園に出た。そこからすぐ近くに藤田美術館があり、久しぶりに偶然訪れた。「ザ・コレクション」と銘打って国宝の「窯変天目茶碗・仏功徳蒔絵経箱」、快慶の重文「木造地蔵菩薩立像」など所蔵名品が展示されていた。611日で終了後は建て替え工事のため2020年の再開まで休館とのこと!今年3月に「ニューヨークのクリスティーズの競売」では、所蔵の殷・周時代の青銅器、乾隆帝時代の書画リストとして編集された「石渠宝笈」に入っている絵巻や「六龍図巻」など31点で総額約300億円で売れたとのことです。日本国内ではあまり話題にならなかった。これだけの資金で藤田美術館が立派にリニューアルオープンすることを期待している。【紐育閑話】朽木ゆり子氏(2017-3-29):中国書画の名品や現代アートは米国・中国・台湾などの金満家が高値で購入しているとのこと!

  F 寺社・宗教など:「地獄絵ワンダーランド」三井記念美術館・8月、「源信1000年忌:地獄極楽への扉」奈良国立博物館・8月、など地獄絵・極楽絵の展示会が人気を博した。昨年はヒエロニムス・ボスの歿後500年の天国・地獄絵展示会がオランダの田舎町であり、日本からのツアーで参加した美術仲間が混んでいて夜中に鑑賞させられたと言っていた。「怖い絵展」「アルチンボルト展=面白い・おかしな絵展」など、厭世的な世の風潮は世界的なのかもしれない!このためこういう展示会が人気を博するのかも? 今年の最後の訪問として東博に行ったら、河鍋暁斎の「地獄極楽図」の大作が展示されていた。
 源信が1017年に亡くなっているがその前の985年に「往生要集」で仏教の地獄・極楽の総まとめをしている。キリスト教の地獄・煉獄・天国についてはダンテが「神曲」を13071321年に完成している。これらの記述をもとに絵画化されているものが多いと思われる。
 仏像展も今年のハイライトの一つである。「快慶展」奈良国立博物館・4月、米国・テキサス州「キンベル美術館」に3月に行った時快慶の「阿弥陀如来像」は貸出中だった。まさか奈良国立博物館のメイン展示品になっているとは知らなかった。
 「運慶展」東博・10月、あらためて運慶の写実的な造形美をじっくりと鑑賞した。たまたま「ダ・ヴィンチとミケランジェロ展」三菱一号館美術館・8月、「十字架を持つキリスト」大理石の大きな像をじっくりと見る機会があった。素材の違いはあるもののミケランジェロより200年以上前に写実的で力強い造形がなされていることには驚いた。
 「タイ〜仏の中の輝き〜展」東博・8月、有数の仏教国で信仰の熱いタイの仏教にまつわる作品や経典などを初めて見た。
   奈良・薬師寺に今年5月に創建された「食堂」とそこの田淵俊夫画伯の障壁画「阿弥陀三尊浄土図と仏教伝来の道と薬師寺」を静かな雰囲気でゆっくりと鑑賞した。庄次郎さんがこの絵を見ることを勧めてくれた。繊細な線と水彩画を思わせるような淡い色調で画家のマチエールを如実に著した大作である。何度か見ている別棟の平山郁夫画伯の「玄奘三蔵院伽藍」の濃密な油絵調の絵とは好対照であった。
 1031日に国宝の東福寺の「三門」の搭乗、石清水八幡宮、東山の「将軍塚青龍殿」に初めて行った。「将軍塚青龍殿」からの京都市街の鳥瞰と整備された庭園は素晴らしかった!

G 「歿後40年幻の画家 不染 鉄」展・8(東京ステーションギャラリー)でたまたま見た。名前も何も知らない日本画の画家でしたが、人間的なぬくもりのあるセピア色の懐かしさを覚える絵や陶器が心に残った。

(2)建築・工芸(陶磁器・その他)

  陶磁器関係のグレイト・イべントは次の@、Aである。

 @ 台北国立故宮博物院の「北宋汝窯青磁水仙盤」の海外初の展示が大阪市立東洋陶磁美術館(2016-122017-3)であった。人類史上最高のやきものといわれる「青磁無紋水仙盆」他5点(1点は清時代の倣製品)と東洋陶磁美術館所有の1点が一室にLEDで調光された素晴らしい環境でじっくりと静かに存分に鑑賞できました。それぞれに特徴はありますが、やはり「無紋水仙盆」が色・光沢・形とそれらのバランスが絶妙でよいように思われた。北宋汝窯青磁の伝世品は100点以下といわれ、素性のはっきりした製品は甚だ貴重で直径13〜14pの小盤が約20億円で落札された(香港サザビーズ・20124月)。

 A 「茶の湯展」東博・4月、国宝・重文などの茶碗多数、窯変天目茶碗(静嘉堂文庫美術館の稲葉天目)、藤田美術館・4月の窯変天目茶碗、京博・10月の窯変天目茶碗(龍光院蔵)と世界に3点しかないといわれている窯変天目茶碗を一応見たことになる。昨年のTV番組で4つ目の窯変天目茶碗が見つかったと放映され物議をかもしているが、そのせいか京博での展示では長蛇の列であった。静嘉堂文庫美術館の稲葉天目の展示の際、これと同じ寸法で重さ(276)も近い模造品(光沢はない)を試作し、それを手に取って感触を体験できるサービスまであった。もちろん私もその感触を楽しんだ。

 B 「並河靖之七宝展」東京都庭園美術館・1月、主に明治時代に活躍した有線七宝製作の第一人者で皇室・国内外の著名人のコレクションとなっている。京都の並河靖之記念館や清水三年坂美術館などが所蔵する優品が華やかに展示されていた。黒の発色が素晴らしい作品が何点もあった。東京都庭園美術館は展示空間がこのような展示に非常に調和している。 

 C 「安藤忠雄展」国立新美術館・11月、建築設計・モックアップ品がこのような大きな空間に展示されるのは珍しい。美術館のテラスに実物大の小さな「教会」まで展示されていた。安藤が設計した美術館は日本・欧米にたすうある。そのうちいくつか行ったことがあり、興味深く鑑賞した。例えば「大山崎山荘美術館」は地中にコンクリートで空間を造る、安藤の初期の作品で、直島の大規模な「地中美術館」などにつながったものと思われる。

  「TOTOギャラリー・間」・6月、小規模ではあったが、 の建築設計・モックアップ品を見た。国内外で活躍し建築界のノーベル賞といわれるプリッツカー賞を受賞している。震災復興の仮設住居の間仕切りに圧縮紙管などで対応、フランスや日本の美術館・文化施設の設計も手掛けている。マザーテレサ社会正義賞受賞。

(3)油彩画・彫刻:今年も世界各国の作品を集めた展示会が多く、アジア諸国からの鑑賞者も多く見られた。

 @ 「モネ初期作品展」リージョン・オブ・オナーズ美術館(サンフランシスコ)3月、185872年の印象派が確立される以前の作品を50数点、世界各国から集めて展示されていた。私が初見の作品が30点近くあり貴重な機会であった。かなり混んでいたが、時間指定の鑑賞券をインターネットで予約入手していたので待ち時間なしで見られた。日本でも混雑が予想される展覧会にこういうシステムを導入して欲しい。また、5点ほどの作品を除き写真撮影は可能であった。日本から「ルエルの眺め・1858、丸沼芸術の森所蔵・埼玉近代美術館に寄託」も展示されていて、撮影可能だったが、埼玉近代美では不可。日本でもかなり厳しい条件下で写真撮影が認められる展示会も少しはあるが、撮影可は世界の趨勢となっている。最近ではダ・ヴィンチの「最後の晩餐」まで写真撮影可になったとのこと。なお、20173月の米国南西部美術館巡りは資料3として添付

 A 「ミュシャ展・スラブ叙事詩」国立新美術館・3月、大作の「スラブ叙事詩」を全点展示できるのは、ここしかない。それでもやや窮屈な感じだったが、照明効果もよく良い雰囲気で鑑賞できた。内容的には民族の背景・歴史を理解していないので難解でした。入場者数は66万人を越え、今年の1〜2位であろう。ミュシャの人気は「ポスター的なリトグラフ」と思われ、若い人が多かった。1室だけ写真撮影可でスマホで撮っている人が多かった。

 B 「ティッツアーノとヴェネティア派展」東京都美術館・2月、ティッツアーノを中心にその前後の作品をイタリア各地の美術館から集めた展示で、ティッツアーノの「フローラ」・「ダナエ」などの目玉作品と大作ではないがヴェネティア派の色鮮やかな小ぶりの作品が程よく展示されていた。

 C 「ボイマンス美術館・ブリューゲル“バベルの塔”」東京都美術館・4月、199310、セゾン美術館で見たことがある。テレビや拡大複製品などで詳細に見ると面白いが、今回の展示で、ヒエロニムス・ボスの貴重な作品2展「放浪者」・「聖クリストフォロス」とボス、ブリューゲルの周辺の作品をまとめて鑑賞できた。

 D 「アルチンボルド展」国立西洋美術館・6月、この展覧会もアルチンボルドの作品をかなりまとめて見れるという珍しい企画である。時代の風潮に合っているのか、若い人が多かった。

 E 「北斎とジャポニズム展」国立西洋美術館・11月、北斎が当時のフランスを中心としたヨーロッパの芸術分野に与えた影響を多角的に捉えた展覧会で見ごたえのある内容だった。北斎の作品を参考にしたと推定される作品とマネ、モネ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、クローデル、ガレなどの作品を対比させて展示してあった。

 F 「ダ・ヴィンチとミケランジェロ展」三菱一号館美術館・6月、両者の有名な素描を並べて展示したり、両者とその追随者の作品の展示が多かった。ミケランジェロの初期の未完成彫刻「十字架を持つキリスト」を後の彫刻家が完成させた大理石の大きな彫刻が展示され、これだけは撮影可能だった。

 G 「大エルミタージュ美術館展」森アーツセンターギャラリー・3月、「オールドマスター:西洋絵画の巨匠たち」というタイトルでイタリア、オランダ、フランドル、スペイン、フランス、ドイツと1618世紀の中〜小サイズの日本人好みの作品を展示してあった。クラーナハの「リンゴの木の下の聖母子」、ベルナルド・ベロット「ドレスデンのツヴィンガー宮殿」の大作が印象に残った。

 H 「怖い絵展」上野の森美術館・11月、先行した兵庫県立美術館での展示会のころからSNSなどで若者の人気のためか、大いに混雑した。私の注目する絵は少なかったが、セザンヌの初期の暗い作品「殺人」、ドラローシュの「レディ・グレイの処刑」を注目して見た。

 I 「ジャコメッティ展」国立新美術館・6月、スイスの美術館、米国の美術館で多く所蔵・展示されているのを見たが、今回はフランスの私立のマーグ財団美術館の所蔵する作品を中心に国内の美術館所蔵の作品画補完する展示であった。彫刻家の独特のフォルムに至るまでの手稿やデッサンなども展示されていたが、なぜこの像なのかは理解できなかった。

 I 「ゴッホ展〜巡りゆく日本の夢」東京都美術館・10月、過去何度も日本や海外の展示会で見ている作品も多いが、今回初見の作品も何点かあった。シンシナティ美術館の「ポプラ林の中の二人」は13点くらいある横長サイズの最晩年の作品で是非見たかったものでした。本展覧会の企画・監修の責任者である圀府寺 司大阪大学教授の長年のゴッホと日本の関わりの「総まとめ」という印象であった。

 番外1:「草間彌生〜わが永遠の魂〜」国立新美術館・2月、過去2〜3度展覧会を見ている。なぜこの特異な女流芸術家が世界的に受け入れられ人気があるのか私には依然としてわからない???

 番外2:「カンデンスキー、ルオーと色の冒険者たち展」パナソニック汐留ミュージアム・11月、ユニークな展覧会でカンデンスキーの初期の大作「商人たちの到着」(宮城県美術館所蔵)を再見できた。

  番外3:「ディエゴ・リベラの時代展」埼玉県立近代美術館・11月、メキシコの近代の画家のまとまった展示会は珍しい。リベラの大作の壁画は有名で藤田嗣治もメキシコで見ているとの資料があった。秋田県立美術館の藤田の大作「秋田の行事」はリベラの大作の壁画にインスピレーションを得たのかと勝手に推察している。

                                                             ※資料1へ
                                                             ※資料2へ
                                                             ※資料3へ

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